研究概要 |
検討内容(1):低繁殖能力雄個体(5頭)および正常繁殖能力雄個体(1頭:対照区)の凍結精子を洗浄後にcAMPアナログ(cBiMPS)含有培養液中で3時間処理し,運動性の変化を客観的観察法により解析した。低繁殖能力雄個体では,処理前の運動精子率は69%で,対照区(72%)とほぼ同等であった。しかし処理後にその値は52%まで大きく低下し,対照区(69%)よりも有意に低くなった。また処理後の超活性化運動(HA)精子率は20%で,対照区(24%)との間に有意差は認められなかったが,なかには極端に低い値のサンプルが多くみられた。以上のように,精子の運動保持性は黒毛和種雄個体の繁殖能力評価法の生物学的指標となりうることを新たに示唆したが,HA能力の指標としての有効性は明確にできなかった。 検討内容(2):上記の実験を実施する過程で,cBiMPS処理により通常よりも高率(39%)の精子でHAが誘起される個体(高HA個体)を発見した。そこで高HA個体由来の精子におけるcBiMPS処理後のタンパク質チロシンリン酸化パターンをデンシトメータ画像解析法により対照区(HA率:28%)と比較したところ,105kDaおよび130kDaのチロシンリン酸化タンパク質が有意に高い強度で検出された(対照区に対する検出強度比はそれぞれ165%および163%)。他方,94kDaチロシンリン酸化タンパク質も高HA個体でより強く検出される傾向にあったが,これと同一の分子マスのFAK様チロシンキナーゼが鞭毛主部に存在し,cBiMPS処理によってチロシンリン酸化されて活性化型となることを明らかにした。これらのチロシンリン酸化タンパク質はいずれもウシ精子のHA能力を測定するための生化学的指標の候補分子で,またHAの分子機構の解明および人為的な精子の受精制御法の開発における重要な因子でもある。
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