ウシおよびブタの発育途上卵母細胞を様々な環境で12〜14日間培養して発育させ、得られた卵母細胞の能力を比較検討した。当初の計画に沿って以下の実験を遂行した。 1.高分子化合物の種類がブタ卵母細胞の能力に及ぼす影響を調べた試験では、FicollとPVPの濃度が同じ4%の場合、卵母細胞の生存率や直径などの形態の上では同等となるが、潜在的胚発生能力はよりPVP添加培養液において高まることを明らかにした。 2.還元剤β-メルカプトエタノールにはウシ胚の体外発生を促進する効果がある。しかし、発育途上卵母細胞の長期培養においては、生存率、発育および成熟率のいずれに対しても明確な効果がなく、むしろ高濃度では悪影響が顕著であった。現行の培養システムにおいては、活性酸素種への対処としての還元剤の利用は、効果がない、あるいはあっても弱いと考えられる。 3.体外培養中の顆粒膜細胞の分化(黄体化)の指標として、培養液のプロジェステロン濃度を測定した。プロジェステロン濃度は、培養の経過とともに上昇したが、卵母細胞の摘出後にその傾向が強まることから、顆粒膜細胞の分化を卵母細胞が抑制している可能性が示された。 4.糖質コルチコイド製剤のデキサメタゾンが卵母細胞の発育を促進する効果の機序を調べる試験では、培養液に添加するエストロジェン(E2)の有無、並びにデキサメタゾンの有無の4種類の組み合わせで培養し、デキサメタゾン単独、あるいはE2単独では卵母細胞の発育を促進する効果が低く、それぞれ別の作用を持ちながら相乗的に作用する可能性が示唆された。 5.卵母細胞を包む顆粒膜細胞が接着するための基質の選定に関する試験では、コラーゲンなどの細胞外マトリックス成分は不可欠ではないものの、プラスチックの培養皿表面とウシ胎児血清の組み合わせだけでは、長期間の培養を維持することは難しいことが判明した。
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