ウシ発育途上卵母細胞を6〜14日間培養して発育させ、顆粒膜細胞の増殖・分化に及ぼす卵母細胞の影響を調べるとともに、種々の基質上で発育させた卵母細胞の成熟能力を比較検討した。 1.卵巣用保存液の開発:と畜から9時間程度の保存であれば、卵母細胞および顆粒膜細胞の生存性に悪影響を与えない保存液組成と保存条件を選定した。 2.幹細胞用培養液を使った卵母細胞の体外発育:卵母細胞の生存率は向上したものの、成熟能力が損なわれることが判明した。分裂中止に至る原因は不明であり、今後検討するべき課題として残された。 3.卵母細胞による顆粒膜細胞の増殖・分化の制御:卵母細胞が除去された場合、顆粒膜細胞の増殖は停止され、黄体化が著しく進行すること;それに対し、卵母細胞を残すことで黄体化は抑えられ、細胞増殖が促進されることを明らかにし、卵母細胞が顆粒膜細胞の増殖・分化の方向を決定していることの確証を得た。分子生物学的手法を用いた確認が課題として残された。 4.細胞接着に関与する因子の培養組織の接着への応用:接着成分のうち、フィブロネクチン、コラーゲンおよび基底膜成分を模したマトリゲルを選び、それらの上で複合体を14日間培養して卵母細胞の生存率を比較した。コラーゲンでコートされた培養皿とマトリゲルが塗布された培養皿での成績を比較すると、マトリゲル上では高い割合で卵母細胞が死滅した。その生存率は、対照区として使用したプラスティック表面上における場合よりも低く、本来、顆粒膜細胞が接する基底膜に成分が近いはずのマトリゲルにおいて、最も悪い結果となった。このことから、生体成分由来の細胞接着基質は卵母細胞の生存率・発育および能力に悪影響を与える場合があることが明らかとなった。
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