研究概要 |
主に胃(胃粘膜上皮)と心臓(心筋細胞)を対象に研究を行った。以下に結果の概要を記す。 (1)胃粘膜上皮:(1)4種の胃癌細胞と初代胃腺細胞のEphB/ephrin-B発現をRT-PCRにより検討した結果,癌細胞に特有な発現パターンは検出できなかった。(2)MNNGの経口単回投与で胃癌モデルラットの作製を試みたが,固有胃腺あるいは幽門腺領域に肉眼で明確に判別できる固形癌を作製することはできなかった。免疫染色により細胞増殖性(Ki67陽性)を示す細胞塊が,胃腺の幹細胞領域外に認められたため,方法を改良すれば胃癌モデルラットの作製は可能であると考えられた。(3)平成18年度に酢酸塗布により胃潰瘍モデルマウスを作製し発現解析したが,潰瘍領域が小さく各種解析への応用が困難でたったため,塩酸アルコールの経口投与および水浸拘束により胃潰瘍モデルラットの作製を試みた。その結果,前者の方法で比較的広範囲の潰瘍形成に成功したが,個体により粘膜上皮の再生に時間的な差異が認められ,改良が必要と判断された。(4)ROCK阻害剤であるY27632などを用いて細胞の形状,Focal Adhesionの状態,アクチンフィラメントの状態を可溶性リガンド添加によりEphBを活性化させた初代培養細胞を使って検討し,EphBシグナルによる胃腺細胞の膜退縮がRhoAを介した作用であることを確実に証明した。 (2)心筋細胞:転写因子GATA4,Nkx2-4と収縮蛋白α-MHCの発現動態を比較して胚芽腫P19CL6(親株)よりも開発した亜株P19CL6-A1の方が効率的に心筋細胞へ分化することを明示した。また,動画から拍動リズムを解析するソフトVizorhythm(新たに開発)と強心剤(ouabain,IBMX)を使用して,P19CL6-A1由来の心筋細胞が初代培養心筋細胞に代替できる細胞であることを証明した。初代培養細胞を材料にEphシグナルが心筋細胞間の同期する拍動リズムを乱す原因を検討したが,十分な証拠を得るには至らなかったので,今後はP19CL6-A1由来の心筋細胞で検討する。
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