動物の個体はたった1個の受精卵から発生する。個体の正しい発生には精緻な細胞増殖と分化が不可欠である。すなわち、受精卵や発生初期の細胞は分化における全能性を有しており、各胚葉の幹細胞に分化した後、多段階の分化過程を経て個体は形成される。細胞の分化制御に関して詳細の多くは依然として不明である。そこで、胚性多分化能細胞から中胚葉系列細胞への分化におけるTGF-βファミリーの意義を探ることを目的として研究を行っている。本研究では、マウス胚性腫瘍細胞P19を用いた。この細胞はマウス発生初期の胚盤胞内部細胞塊に類似した性質を持つ多能性細胞で、培養条件に応じ三胚葉のいずれにも分化することができる。最初に、本細胞株の通常の培養(6%FCS存在下)時における各種分化マーカー遺伝子の発現を調べた。その結果、TGF-Rファミリーによって正に制御されていることが知られている中胚葉マーカー遺伝子であるBrachyury (Bra)とGoosecoid (Gsc)の発現が認められた。BraとGscの発現量は培養開始後96時間目以降に激減した。TGF-βファミリーの各種メンバーの遺伝子発現量を調べたところ、Braと(iSCと類似した変化を示したものはNodalのみであった。またNodalのシグナル伝達に必要なR-SmadであるSmad2/3のうちSmad2のリン酸化が96時間目で減少し、Nodal受容体であるAlk4/7の阻害剤SB431542によりBraとGscの発現量が用量依存的に減少した。これらのことからBraとGscはNodalによって誘導されているのではないかと推測された。次に、Nodalの遺伝子発現制御について検討するために120時間培養した培地上清を用いP19細胞を培養した。その結果、長期間の培養することによりNodalの発現を阻害する因子が産生されていることが分かった。
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