研究概要 |
動物の個体はたった1個の受精卵から発生する。個体の正しい発生には精緻な細胞増殖と分化が不可欠である。すなわち、受精卵や発生初期の細胞は分化における全能性を有しており、各胚葉の幹細胞に分化した後、多段階の分化過程を経て個体は形成される。細胞の分化制御に関して詳細の多くは依然として不明である。そこで、胚性多分化能細胞から中胚葉系列細胞への分化におけるTGF-βファミリーの意義を探ることを目的として研究を行っている。本年度は、P19胚性腫瘍細胞を用いて、TGF-βファミリー添加に対応した情報伝達経路の解析を行った。TGF-βファミリーの情報伝達分子であるSmadタンパク質は受容体セリンキナーゼによってそのC末端に位置するセリン残基がリン酸化され、活性化することが知られている。Smadタンパク質のリン酸化を高感度に検出するため、Wiestern blotのブロッキング液の影響を調べたところ、Atto社のEzBlockを利用することによってSmadタンパク質のリン酸化の高感度検出が可能となった(Funaba and Murakami,印刷中)。この方法を利用して、TGF-βファミリーを培地中に添加した時のSmadリン酸化の様相を調べたところ、P19細胞は、基本的に、TGF-β1に応答性が見られないこと、ならびに、BMP-2に対してはBMP応答Smadとして知られるSmad1/5/8がリン酸化される一方、アクチビン/TGF-β応答Smadとして知られるSmad2がリン酸化されないこと、が明らかとなった。興味深いことに、アクチビンAに対しては、BMP応答Smad、アクチビン/TGF-β応答Smadのいずれもがリン酸化されることが分かった。アクチビンAによって両系統のSmadがリン酸化されることは、文献上、知られていないことから、今後、このリン酸化の分子機構ならびにその意義について検討する必要がある。
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