研究概要 |
ペスチウイルスは一般に偶蹄類の間を動物種を越えて伝播することが知られており,Los Angeles動物園では飼育されていたカモシカから本ウイルスが分離されている.盛岡市およびその近隣の丘陵地帯には野生のニホンカモシカが生息しているが,同地域では牛の放牧も行われている.そこで日本国内の野生動物での状況を把握するため,2001年から2004年までの間に盛岡地域で自由生活を営むニホンカモシカから採取された血清を用いてペスチウイルスによる感染を調査した.被検血清は負傷もしくは死亡した16頭から剖検時に採取され,凍結保存されていたものである.ペスチウイルスゲノムの5'-UTRを標的とするRT-nested PCR法により,血清中のペスチウイルスを検出した.3頭のニホンカモシカに本ウイルスの感染を確認できたが,いずれの剖検所見からも本ウイルスによる感染症を示唆するものは得られなかった.また,それら3検体のPCR産物の塩基配列はすべて一致しており,同一のウイルス株による感染と考えられた.さらにその塩基配列の一次構造ならびに推定される二次構造の回文様塩基置換分析に基づき,検出されたペスチウイルスを牛ウイルス性下痢ウイルス1(BVDV-1)と同定した.これらのことから,盛岡地域で自由生活しているニホンカモシカの間で,特定のBVDV-1株による感染が持続的に発生していると考えれれた.
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