研究課題
基盤研究(C)
山口大学付属動物医療センターに来院した犬の自然発生肥満細胞腫を対象として変異c-kitを介した細胞増殖に抑制効果を持つメシル酸イマチニブの臨床的治療効果を検討した。次いで本剤を含む化学療法の薬剤耐性に関与していると考えられるMDR1(Multidrug Resistance)の発現を、犬の肥満細胞腫27症例を対象として検討した。その結果、本剤の臨床例に対する投与により、2症例で著しい腫瘍の縮小効果が認められた。しかしこれらの2症例では、ともに治療開始から約6カ月後に腫瘍組織の再増殖が認められ、その治療効果が著しく減弱した。以上のことから肥満細胞腫に対する化学療法においても、造血器系腫瘍と同様に何らかの薬剤耐性が発現している可能性が示唆された。次に自然発症肥満細胞腫から採取した腫瘍組織において、MDR1の発現をRT-PCRによって評価した。その結果、27例中18例でMDR1の発現が確認された。次いで肥満細胞腫に由来する3種類の培養細胞(CoMS, LuMC, TiMC)において、MDR1遺伝子とその産物であるP糖蛋白(P-gp)の発現を検討した。さらにP-gpの機能をフローサイトメーターによるローダミン123排出試験によって評価した。その結果、CoMS, LuMCの2種類の培養細胞でMDR1が発現しており、これらの細胞株ではP-gpの発現が認められた。しかしながらMDR1が発現していなかったTiMCでは、 P-gpの発現は認められなかった。またローダミン123排出試験を実施したところ、の研MDR1/P-gpが発現している培養細胞(CoMSとLuMC)において、細胞内への薬物取り込みを阻害するP-gpが機能的に活動していることが分かった。以上の検討結果より、犬の肥満細胞腫にメシル酸イマチニブを用いた治療が有効な症例が含まれていることが判明した。しかしながらその効果には、MDR1を介した薬剤耐性が関与している可能性が考えられ、腫瘍組織の再増殖が引き起こされているものと思われた。さらに臨床例と培養細胞を用いた検討結果より、MDR1を発現した肥満細胞腫が潜在的に多数存在している可能性が示唆された。
すべて 2007
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)
Journal of Veterinary Medical Science 69・2
ページ: 111-115
Journal of Veterinary Medical Science 69(2)