イヌの脳浮腫による頭蓋内圧亢進症に対して、膠質浸透圧剤が第一選択薬として用いられているが、作用発現までに時間を要するため急性の頭蓋内圧亢進症に対して甚急的対応が困難である。近年、7.2%高張食塩液の頭蓋内圧降下作用が注目されている。高張食塩液は、脳内血管-脳脊髄液でナトリウムイオン濃度較差を生じ、脳脊髄液の一部が脳内血管へ移動して頭蓋内圧を降下させるが、ヒトおよび小動物医療において頭蓋内圧降下作用を目的とした高張食塩液の臨床応用は積極的に行われているわけではない。その理由として、(1)既存の脳圧降下剤に対する高張食塩液の優位性や適応例が明らかではないこと、(2)高張食塩液が頭蓋内圧を降下させている作用時間および脳内循環動態が明らかでないこと、(3)急激なナトリウム濃度の変化によるCentral Pontie Myelinolysisの危険性、および(4)正常血圧動物における高張食塩液投与直後の血圧降下および陰性変力作用の危険性などがあげられる。従って、本研究では磁気共鳴画像診断装置を用いて非観血的に脳内血管断面積、頸動脈および静脈断面積、およびこれらの血流速度の変化を指標に高張食塩液およびデキストラン加高張食塩液の静脈内投与が脳血液循環におよぼす影響を明らかにすることを目的とした。その結果、6%デキストラン加高張食塩液はマンニトールよりも血圧降下および陰性変力作用などの有害反応を伴わずに上矢状静脈血管径を有意にかつ長期間拡張させることを明らかにした。従って、デキストラン加高張食塩液はイヌの脳浮腫改善薬として有用であることが示唆された。
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