アディポネクチンは脂肪細胞で産生されるアディポカインの一つで、ヒトでは肥満すると血中濃度が低下し、糖尿病の発症に関与する事が知られている。ネコの糖尿病はヒトの2型糖尿病に類似し、同様にアディポネクチンの関与が推察される。平成19年度は、ネコのアディポネクチンについて個体レベルの解析を行い、肥満猫や糖尿病猫での血中動態について検討した。平成18年度の当研究において我々はポリクローナル抗体を用いたマウス/ラット用のELISAキットが猫のアディポネクチンの測定に応用可能であることを確認したが、今回は実際にこのキットを用いて日本獣医生命科学大学動物医療センターに来院した患者猫24頭について、肥満度(5段階ボディコンディションスコア、BCS)と血中アディポネクチン濃度の関係について解析した。その結果、BCS=2.5-3の群では17.7±3.6μg/mL、BCS=3.5-4の群では10.6±3.1μg/mL、BCS=4.5-5の群では6.6±2.3μg/mLであり、肥満度の高い症例で血中アディポネクチン濃度はより低値を示した。ネコにおいても血中アディポネクチンは肥満度を反映し、糖尿病の発症に関与している可能性が示唆された。そこで、次に同医療センターに通院中の糖尿病猫2頭を対象に、血中アディポネクチンとフルクトサミン(FRA)の関係について解析した。症例1(11歳、去勢雄、BCS=5)では、治療に伴って最初の数週間で血中FRAが低下したが、アディポネクチンはそれに少し遅れて上昇するのが観察された。一方、症例2(13歳、雌、BCS=4)ではインスリンの維持投与量が低下しているものの血中FRA濃度はほとんど変化せず、アディポネクチンもほぼ一定の値を示していた。これらの結果から、糖尿病猫においてアディポネクチンはFRAと逆の変動を示す可能性が示された。
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