本年度は申請計画の基盤的なアッセイ系を確立するため、まずイヌの骨髄前駆細胞から樹状細胞の分化誘導法を検討した。これにより、イヌでは骨髄前駆細胞に対してGM-CSFに加えてIL-4を作用させる事で、きわめて効率的に樹状細胞を誘導できる事が明らかとなった(Isotani et al. 2006)。また、樹状細胞を安定的に供給できるよう、樹状細胞の悪性腫瘍であるイヌの組織球性肉腫の組織から樹状細胞の株化を行った(Azakami et al. 2006)。骨髄より誘導した樹状細胞および組織球性肉腫から樹立した樹状細胞は、いずれもアロT細胞の著しい増殖を引き起こす事が明らかとなった。次いで樹状細胞により特異的に増殖するリンパ球クローンを同定するため、T細胞の遺伝子再構成パターンがPCRにより検出可能なアッセイ系の確立を試みた。これには、まずイヌTCRをコードする遺伝子群の塩基配列を同定し、配列の特長により各遺伝子群をサブグループに細分し、サブグループ特異的なプライマーを作製した。これにより、樹状細胞に特異的に反応したリンパ球クローンの同定が可能になった(Yagihara et al. 2007)。今回、上述の結果をベースとして、まず樹状細胞が抗原に対し特異的に引き起こすポジティブなリンパ球反応の実験系を確立し、抑制シグナルの解析を行うための対照とした。ポジティブなリンパ球反応を引き起こす典型例として、イヌの悪性黒色腫の株化細胞(CMM2)を用いた。In vitroでCMM2抗原を樹状細胞に与え、特異的なリンパ球反応をin vivoで評価した。骨髄から誘導した樹状細胞および株化樹状細胞はいずれもin vivoで抗原に対する免疫反応(遅延型過敏反応:ツベルクリン型)を引き起こした(Tamura et al. 2007 in press)。さらに抗原に対しリクルートされてきたリンパ球は腫瘍蛋白に対し特異的に反応するT細胞クローンであることが明らかとなった。一方、リンパ腫・組織球性肉腫の抗原に対しては特異的なリンパ球の増殖・リクルートは引き起こされず、樹状細胞-T細胞の相互作用において抑制的な分子機構が存在すると考えられた。本年度はこれらの腫瘍細胞を用いてリンパ球反応の差から抗原特異的な免疫不応答性の分子機構を解明する。
|