本研究では、つぎの3つの柱で研究を進めることにした。1)人工生態系である耕地とは諸点で異なる自然生態系で培われてきた生物多様性の概念を、近代農業が実施される耕地に適用する際の得失を農学的に明確にする。2)わが国では環境保全型農業とも称される持続的農業の意義や導入時の問題点を検討する。3)上記1)と2)の実現場面としての水田では、手段の1つとして簡易耕起移植栽培(ミニマムティレッジMT)の適用を試みる。この際、モデル的かつ時系列的に諸現象を追求していく必要があるが、これには2つの実験、(1)水稲と水面被覆植物との複作によるモデル実験、(2)1996年以来の大量のデータ蓄積があるMT水田における連用実験、が関係する。従来の生産性指標(狭義の収量性)だけでなく、環境インパクトも考慮した次代の生産システムとして提案していく。2006年度は、供試予定の実験水田で暗渠陥没事故が発生したために当初計画の一部変更を余儀なくされたが、生産性やメタン発生を含む環境特性については多くの時系列データをすでに得ているので、報告書ではこれらの活用を図る。200年年度には、これまで未知であった圃場レベルやコメ品質の変化を学会報告した。一方、多様性導入を念頭に置いたイネとホテイアオイとの共存生態系に関するモデル実験のデータ整理はほぼ終了した。2007年度は、前年度に実施できなかった水質関連の基礎実験に取り組みたい。また、シミュレーション結果に基づいて収量を計画的に低下していった場合の得失を総合的に検討したい。とくに、モデル的に設定したイネとホテイアオイからなる複作系では、イネ収量低下の代償としてホテイアオイがもたらす炭素固定量の増加効果が確認されているので、さらに周辺データの充実を図りながら、アイデアを実現させるための具体的方法についても検討したい。
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