関連学会誌に投稿された水田の共存生態系に関する実験結果は、成果報告書の第2〜3章を構成する。平成19年度から開始された実験結果については関連学会で発表した。成果報告書の第4章を構成するこれらの結果は、要素欠乏や過剰施肥という肥料要素がもたらす環境負荷と籾収量という異質の出力への影響を同時に評価しようとした点に独自性がある。具体的な環境負荷要因としては、水田由来のメタン発生量と田面水質を取り上げた。田面水の全窒素濃度は基肥施肥・代かき時と、窒素およびカリウムの2回の追肥後の3時期に急激に上昇し、全リン濃度は基肥施肥・代かき時にのみ上昇していた。生育期間中の積算メタン発生量および精籾重は、無肥料区<三要素区<三要素+肥区<窒素倍量区の順となり、両者には高い正の相関がみられた。精籾1g当たり(単位面積当たりが隠されている)の積算メタン発生量、田面水の全窒素濃度および全リン濃度を、三要素区を基準(指数100)としたレーダーチャートとしてプロットし、それらの違いを考察することで議論を進めた。一連の実験は、平成20年度も継続していく予定にしている。本研究の最重要キーワードは「持続性」である。狭義の効率優先のモノカルチャー方式を指向している現行水田に対して、共存生態系の構築という提案にはまだ越えるべき障害が少なくない。本研究で得られた新知見である複作導入の利益の一つは、炭素固定量の増大にあった。本研究では、イネとの共存作物(モデル植物)に有害雑草のホテイアオイを選んだが、目的関数に何を設定するかで当然期待すべき出力は異なってくる。将来に向けてさまざまなオプションを用意していくことが、いまを生きるわれわれの責務であることを最後に述べた。
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