研究概要 |
本研究は,河川の送流作用による土砂の移動・堆積が,植物の種子散布を通じて,河川敷の植生の成立にどのような役割を果たしているかを解明することを目的としたものである.研究では,多摩川の増水によって新たに供給された堆積物を採取し,発芽実験によって土砂中に含まれる植物種子の検出をおこない、検出された植物と河床に成立する植物群落の構成種とを比較した.また,多摩川低水敷に生育する主要な草本植物70種の種子を採取し,水中での沈下特性と沈降速度を調べた.その結果,新しい堆積土砂から発芽した実生の種組成は,増水後の堆積土砂上に成立する先駆的な草本群落の構成種と50-70%が共通していた.このことから,河床の植物群落の構成種の多くが,土砂とともに堆積した種子に由来して定着したことが明らかになった.また,新しい堆積物上に発生する実生の種組成は,堆積物の粒径によって異なっていたことから,種子は土砂堆積の段階で土砂粒子とともにふるい分けられていることが示唆された.採取した70種中55種の種子は,水中に投入後24時間以内に80%以上が沈下した.その沈降速度は,微細砂(粒径0.075mm)から中砂(粒径0.25mm)の土砂粒子の沈降速度に相当するものであった.これらのことから,河川には水に浮遊するよりも土砂に混入して運搬され,土砂(特に粒径0.075-025mmの細粒土砂)とともに堆積する種子が相当数あり,これが河床植生の形成に大きく寄与していることが明らかになった.本研究の成果から,河床堆積物の供給量や粒径から,河床に供給される植物種子の量や組成を推定し,増水後に成立する植生タイプを予測するための基礎的情報が得られた.このことは,河川管理への流砂系概念の導入による土砂管理手法の転換がおこなわれつつある現在,それが河川生態系に与える影響の評価手法を確立うえで重要な意義をもつものと考える.
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