タンザニア・カゲラ州において現地調査を実施し、前回(平成18年)調査以降の同地域におけるバニラ栽培および流通の動向を把握するとともに、前回調査対象世帯における生産量、品質、収穫・加工・出荷量について追跡調査を行なった。出荷価格の低迷が続く中で、自家キュアリング量の増加、栽培面積縮小などの対応をとる農家が増えている一方で、村落レベルでの農家組織が主体となって高品質の製品づくりを試みる事例も見られ、作物の経済価値に対する人為要素の重要性が確認された。 また、前年度末に実施したインド洋島しょ部(マダガスカル、コモロ、レユニオン)での調査結果をとりまとめ、生産環境(立地、栽培方法・規模、生産者価格等)および加工・流通システム(関与する主体とその役割、流通価格等)に関する比較検討を行った。その結果、世界最大のバニラ生産地であるマダガスカルにおいても、栽培の多くは小農が担っており、原料作物の価格低迷が続き耕作放棄や水田への転換が進む一方で、歴史的経緯をもつ流通主体である集荷・一次加工業者(コレクトゥア)や最終加工・輸出業者(プレパラトゥア)は一定の利益を確保できる流通構造であること、フランス海外県のレユニオンではEUの農業政策に準拠し補助金などによる農家の保護があるものの、生産コストが高く他国製品との価格競争力が低いため、当地産農産物のブランド化によって優位性を確保する戦略が進んでいることなどが明らかとなった。 これらおよび前年度までの成果をとりまとめ、バニラの栽培・加工・流通に関わる地域条件とその導入過程を比較検証し、新規作物の「在来化」についての考察をおこなった。
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