紅河デルタに位置するハノイ市南部の農村を対象にして、地下水ヒ素濃度の時空間的変動について`検討し、またその濃度と地下水の酸化還元電位、アンモニウム態窒素濃度との関連を解析した。さらに、地下水ヒ素濃度と地下水の深さとの関係についても検討した。対象とした農村は、都市近郊農村で、農地では、年に複数回稲作または野菜作が行われ、筆者らの現地調査によれば、農地への窒素化学肥料施肥量は年間に140-1600kg/haで、ばらつきはあったが全般に大きな施肥量であった。地下水の調査はこれまでに2回、2年の間隔を置いていずれも乾季に行った。地下水ヒ素濃度は、対象地全体の最大値がおよそ150μg/Lで、これはWHO水質基準の約15倍の値であった。農村別に見ると、対象とした4農村のうち3農村で、ヒ素濃度の最大値は100μg/L以上で、これら農村全体としてはヒ素濃度が高いと認められた。しかし、各農村及び各調査時期の違いによる地下水ヒ素濃度の違いは認められなかった。地下水の酸化還元電位が低い箇所で、また、そのアンモニウム態窒素濃度が高い箇所で、それぞれ地下水ヒ素濃度が高い傾向が認められた。前者より、地下水の還元的環境下で堆積物に含まれるヒ素が地下水に溶出していること、後者より、堆積物からのヒ素溶出に農業における窒素化学肥料施肥が加担しているとそれぞれ推察された。さらに、地下水ヒ素濃度は、地下水の深さが40-65mの箇所で最も高いとう結果が得られた。これについては、対象地域の40-65mの深さの堆積物がヒ素を多く含み、このヒ素が地下水に溶出しているためと考えられた。
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