植物が環境ストレス(熱、塩、乾燥等)にさらされると、mRNAからの翻訳が抑制される。その機構についてはまだ不明な点が多いが、環境ストレスにより、すべてのmRNAからの翻訳が抑制されるわけではなく、翻訳が維持される、つまり選択的に翻訳されるmRNAも存在する。しかし、動植物を問わず、制御を規定する5'UTR内の因子を含め、制御機構に関する知見は乏しいのが現状である。 そこで、本研究は、シロイヌナズナ培養細胞を用いてストレス環境下(熱および塩ストレス)において選択的に翻訳されるmRNAに関して、ポリソームプロファイルおよびマイクロアレイを用いてゲノムスケールで解析するとともに、翻訳状態の変化を2種のストレス間で比較・検証した。塩及び塩のいずれのストレス下においても、全体的にはポリソーム形成が阻害されるが、維持されるmRNA種から極端に阻害されるmRNA種まで様々であった。また、極端に翻訳が阻害されるあるいは維持される傾向にある機能集団の存在から、翻訳段階の制御が、植物のストレスに応答した遺伝子発現制御過程において重要な意味を持って存在している可能性が示唆された。加えて、植物のストレスに応答した翻訳制御には、ストレス間で共通した大部分のmRNAに対する制御とストレス特異的な制御が存在している可能性も示された。植物が環境ストレスに応答して遺伝子発現を制御する過程の中で、翻訳段階においても幅広いmRNAに対するダイナミックな制御がなされており、そうした制御は、これまで考えられてきた以上に、植物のストレス応答において重要な役割を担っていると考えられる。
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