高等植物のレドックスシグナル伝達解析のためのモデル実験系を構築するため、レドックスシグナル伝達の場としての細胞質および葉緑体に着目し、高等植物の主要な抗酸化酵素のひとつアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)をエストラジオールにより一過的に発現抑制/過剰発現可能な植物培養細胞およびシロイヌナズナの作製を試みた。タバコ培養細胞BY-2細胞をもちいてpMDC7により細胞質型APXをアンチセンスに導入した形質転換細胞AtAS3は、12.5μMエストラジオール添加により48時間までにおよそ40%のAPX発現の抑制が認められた。AtAS3は、APXの一過的抑制に伴う細胞内H2O2レベルの増加が認められ、細胞内レドックス状態が酸化側に偏ることが示された。また、ストレス応答性を検討したところ、塩ストレスおよび熱ストレスに対して顕著な耐性能の付与が認められた。サブトラクション法により、AtAS3からレドックス応答遺伝子を探索したところ、既知の遺伝子を含むさまざま候補遺伝子のスクリーニングに成功した。さらに、葉緑体型APXをRNAiを利用してサイレンシングした形質転換シロイヌナズナを作製して、そのレドックス応答性についても検討を進めた。得られたシロイヌナズナ形質転換体は、100 μMエストラジオール添加によりほぼ目的の葉緑体型APXの発現を抑制可能なことが示された。またこの効果は、エストラジオール添加後少なくとも6日目までの長期に渡って持続可能であった。葉緑体型APXサイレンシングシロイヌナズナからマイクロアレーにより、レドックス応答遺伝子を探索した。その結果、およそ400遺伝子が2倍以上の発現上昇を示し、250遺伝子が1/2以下の発現抑制を示した。他にも、一過的なAPX過剰発現BY-2細胞およびシロイヌナズナを作出に成功しており、APXに着目した一連のシステムが、高等植物レドックス応答解析のモデル実験系として有用であることを示した。
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