研究概要 |
本研究は、現在でも有効な治療法やワクチンがまったく開発されていない重症急性呼吸器症候群SARSの治療薬創製を目的とする。このため、日本で単離・構造決定された海洋産天然物Tokaramide AおよびMiraziridine AをシーズとするSARSウイルスプロテアーゼの阻害剤開発を行う。本研究では、SARS CoV増殖に必須となるプロテアーゼのうちmain proteaseをターゲットとして選ぶ。本プロテアーゼは、ウイルス再構成に最も重要な前駆体蛋白質のプロセシング機能を担うと予想されている。 まず、SARS CoVプロテアーゼの調製と酵素活性評価系の確立を行った。SARS CoVの全ゲノム配列を含むcDNAは、東京医科歯科大学大学院・感染応答学講座の山本直樹教授より供与していただいた。このcDNAをもとに、His Tagおよびマルトース結合蛋白(MBP)配列を含むSARS CoVプロテアーゼ融合蛋白質の発現用プラスミドを調製し、大腸菌を用いる遺伝子組み換え法により融合蛋白質を得た。 ついで、エンテロキナーゼによる切断により成熟型プロテアーゼに導いたが、この際プロテアーゼの安定性を向上させるための変異を導入した。得られたSARS CoVプロテアーゼとさまざまな基質ペプチドを用い、酵素活性評価系を確立した。 ついで、Tokaramide AおよびMiraziridine Aの効率的合成経路の確立を行った。Tokaramide Aは、p-hydroxybenzoyl基、2つのL-valineとL-arginalから構成される。まず液相合成により、固相合成にも適用可能なルートを確立した。Fmoc-Arg(Mtr)-OHをワインレブアミド体に変換後、順次縮合を行い、トリペプチド骨格に導いた。ワインレブアミドを還元後、側鎖保護基をTFAで除去しTokaramide Aとした。Mirazhlidine Aは、(3S,4S)-aziridine-dicarboxylate、L-leucine、(2S,3S)-statine、(S)-□-aminobutylic acid、(R)-vinylogous arginineから構成されるペンタペプチドである。まず構成アミノ酸のうち入手困難な異常アミノ酸類の効率的合成法を確立した後、各縮合反応を行いMiraziridine Aの合成ルートを確立した。
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