二枚貝が有毒渦鞭毛藻を捕食して毒化すると食中毒を引き起こすことが知られている。その下痢毒性成分として、日本ではホタテ貝からエッソトキシンが、イタリアではムール貝からアドリアトキシンが単離されている。これらポリ環状エーテル毒は天然からは極微量しか得られていないので生理活性等の解明には化学合成による量的供給が切望されている。アドリアトキシンは10環性ポリエーテル(ABCDEFGHIJ環からなる)で、ABCD環部分、F環、HIJ環が6員環エーテル、E環が7員環エーテル、G環が8員環エーテルの構造を有する。 本年度は大量合成可能な収束型合成ルートの確立を目指して以下の研究を実施した。6員環エーテルの合成原料となる4炭素キラル合成ブロックをトリアセチルグルカールから4工程で合成した。この4炭素キラル合成ブロックと光学活性エポキシスルホン誘導体を反応後、6-エンド閉環反応などを経てA環アセチレンフラグメントを合成した。さらにラセミ体のエポキシスルホン誘導体と4炭素キラル合成ブロックとの反応から出発してDEF環フラグメントを構築した。DEF環フラグメントの合成では、昨年度までの合成法では環状シリルエーテル保護基を用いていたためグラムスケールの合成では選択的脱保護が困難であることや反応中間体の溶解性が極めて悪いなどの問題点があることが判明したので、今回の研究では環状シリルエーテル保護基をベンジルエーテルに変換した原料を用いて合成を行った。さらに本研究の過程で、ビニルブロミド置換基を有する化合物がテトラブチルアンモニウムによって脱HBrされて対応するアセチレン化合物が生成する反応を見出した。
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