研究概要 |
β位に不斉炭素原子を有するキラル一級アルコールをCD発色試薬 3-cyanocarbonyl-3'-methoxycarbonyl-2,2'-binaphthalene 1を用いて誘導体化したところ,何れからも対応するエステルが高収率で得られた。得られた全ての誘導体において,240nm 付近で誘起CDカプレットが観察された。次いで各誘導体について立体配座解析(CONFLEX-MM2)を行なったところ,最安定配座における二つの2-naphthoy1基の長軸方向の電気遷移モーメント間の"ねじれ"の方向と計算で求めた全ての安定配座に基づく優先"ねじれ"との間に相違が認められるケースに遭遇した。この原因として次のことが考えられた。即ち,以前検討したキラル二級アルコールの場合,立体障害が支配的であるのでCONFLEX-MM2による計算が有効であった。しかし,キラル一級アルコールの場合においては,エステルのメトキシ基と他の置換基との相互作用が重要となり,この相互作用の評価がCONFLEX-MM2による計算では設定パラメータの問題等で満足のゆくものではなかったと考えられた。この問題を解決するためにはより精度の高い密度汎関数計算レベルの解析が必要と考えられた。そこで先ず,予備試験としてモデル化合物について密度汎関数法による電子円二色性(ECD)計算を行なった。その結果次のことが明らかとなった。1.ビナフチル基の"ねじれ"の方向が反時計回りでは必ず短波長側から正と負のカプレットになる。即ち,励起子キラリティーの符号は(-)となる。2.各安定配座のエネルギー差は僅かであることから,実際の化合物の立体配座解析がかなり複雑になってくることが示唆された。
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