トリカブトは美しい青紫色の花と強力な毒性で有名である。その毒の本体は主として塊根部に含有される、トリカブトアルカロイドと呼ばれる複雑な構造を有する塩基性成分であり、5種基本骨格に分類される。これらの合成研究には40年を超える歴史があり、日、加、米などで幾つかが全合成された。しかし、上記5種母核のうち、最も複雑な骨格の一つである7環性ヘチサン骨格のみがその全合成はもとより、基本骨格の構築さえも報告されていなかった。 我々は、既に報告した「Pd触媒による分子内ケトン基、ホルミル基、ニトロ基に対するα-アリール化反応」の応用の一環として、ヘチサン型トリカブトアルカロイド全合成に挑み、世界に先駆けて(±)-Nominineの全合成を完成し速報した。更に邦文総説にて合成の経過を詳述するとともに、詳報3編に亘ってその全容を記した。 本合成は世界初とはいえ、40工程を要するうえラセミ体の全合成である。これを再検討し、より汎用性の高い合成経路へと改善すべく研究を継続した。 上記合成経路ではシクロヘキサノンをA環として用い、5位相当部を3-メトキシフェネチルョージドにてアルキル化後、再度酸化、ホルミル基の導入を行なっていた。この工程を短縮すべくTaberらの方法により2-メトキシ安息香酸から一挙に2-アルキルエノンとすべく種々検討を行ったが、脱離基の変換や、塩基の添加などでもフェネチル体からスチレン型への脱離が優先し、所期のアルキル化は起きなかった。一方、前記フェネチルョージド合成法を改良し、大量調製に適う手法を確立した。 光学活性体合成に関してはニトロ中間体の4位ケトンを酒石酸エステルにてアセタール化することにより、ジアステレオマー混合物とすることができた。しかしながら、オープンカラムでの分離は困難であったため、他中間体でのアセタール化を検討する。また、ニトロメタンの不斉付加も併せて検討する。
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