HIV-1-プロテアーゼ(HIV-1-PR)とその阻害剤などについては、これまでに定量的構造活性相関解析(QSAR)、分子動力学計算、分子軌道法による解析がすでに報告されている。しかし、QSARの結果と比較する形で、構造が互いに類似した一連の阻害剤とHIV-1-PRとの複合体についての電子状態解析によって、阻害剤-タンパク質間の電子の動きや阻害剤と特定残基間の疎水相互作用などのより詳細な情報を得ることが可能となる。本年度は上記のHIV-1-PRに加えて亜鉛を活性中心に含むアンジオテンシン変換酵素や脱炭酸酵素などとそれぞれの一連の阻害剤との複合体についての非経験的分子軌道法計算による解析を行い、疎水相互作用および電荷移動の重要性を明らかにした。 以上の分子軌道法の創薬への応用を考えるとき、阻害剤・基質の絞込みや現在の分子軌道法計算では得ることが困難な物性パラメータの検討など関連分野の研究も重要となる。この目的のため以下の関連研究を行った。 1.分配係数logPはタンパク質との結合や細胞組織への取り込みにおいて重要な物性値となる。LogPを用いた定量的構造活性相関によるフラボノイドのPC12細胞への取り込み、チトクロームP450の基質・阻害剤の結合・阻害活性、および催奇形性化合物等の解析から、logPが分子軌道法で得られる電子的パラメータとともに創薬で有効なパラメータであることを確認した。 2.情報科学的判別解析法Support Vector Machine (SVM)を用いたタンパク質の阻害剤・基質の大規模バーチャルスクリーニングを行い、坑うつ剤、リポキシゲナーゼ、チトクロームP450の阻害剤・基質の平面構造のみから導出した記述子を用いたSVM解析により約70%の正答率で化合物の活性あり・なしを識別可能であることを示した。
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