生体保護の皮膚の役割は、角層細胞間脂質のラメラ構造に起因するといわれているため、より効果の高い経皮吸収型製剤を開発するには、細胞間脂質の構造を詳細に調べ、適切な相互作用によってラメラ構造に働きかけて物質透過を促進する製剤成分を組み合わせて用いることが重要である。温度走査しながら放射光X線回折実験を行ってヒト角層の細胞間脂質熱特性を調べたところ、昨年度までに得られているマウスやラットの角層とほぼ似通った性質を示した。薬物の透過実験で繁用されるブタ角層については、充填構造が六方晶のみであったことから、ヒト角層とは異なる可能性が示された。また、薬物の経皮吸収を促進することが知られている1-メントールで前処理を行った角層では、高温型六方晶の形成は認められたものの、その構造は脆弱で温度の上昇に伴って速やかに液晶へと転移した。ラットでは、1-メントールの処理で高温型六方晶はまったく形成されなかったことから、ラットとヒトの角層では、見掛け上同じような構造があっても化合物に対する反応性が異なることから構成脂質が異なる可能性が考えられる。これらの結果から、皮膚表面温度付近では、1-メントールは斜方晶に影響を与えていると考えられる。さらに、斜方晶特有のピークと、六方晶・斜方晶の重なったピークの割合の変化から、1-メントールは六方晶に働きかけてこれを液晶化すると考えられる。これは、代表的な細胞間脂質を含んだ脂質混合物を用いて温度走査しながら放射光X線回折実験を行って得られた結果とよく一致した。したがって、1-メントールは構造化した細胞間脂質を液晶化して、透過障壁を取り除くことにより薬物の経皮吸収を促進すると考えられる。
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