まず抗炎症薬のジクロフェナクイオンをモデル薬物として用い、カウンターイオンとのイオン対形成による経皮吸収性促進について検討した。イオン対を溶解する基剤としては、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)を用いた。カウンターイオンとして、n-ヘキシルアミン、iso-オクチルアミン、ベンジルアミンを用いることによってIPへの溶解度が増大した。モルモット背部摘出皮膚を用いたin vitroでの実験結果より、ジクロフェナクの皮膚透過は、これらのアミンの共存により促進されることがわかった。しかしながら、ジクロフェナクの溶解度が、まだ低いため、マイクロエマルションを利用してイオン対溶解度を改善し、経皮吸収性をさらに改善することを試みた。マイクロエマルションとしては、IPMを油相、りん酸緩衝液(PBS(pH7.4))を水相とし、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80)を界面活性剤、エタノールを補助界面活性剤としたものを用い、溶解度の増大とフラックスの亢進を確認した。イオン対形成については、皮膚表面のpH条件で陽イオンとして存在し、皮膚透過性が非常に悪いが、経皮吸収製剤の開発が期待される気管支喘息治療薬のケトチフェンについても検討した。カウンターイオンとして1-オクタンスルホン酸イオン等のアルキルスルホン酸イオンが共存することにより、非水性基剤への溶解性が改善するとともにケトチフェンの経皮吸収性が改善する結果が得られた。 次に水にも有機溶媒にも溶解しにくく皮膚移行性も低いポリフェノールの皮膚へのデリバリーについて皮膚の光老化防止剤として適用することを目的として検討した。マイクロエマルションを利用することにより顕著な皮膚移行性の改善が見られた。改善効果はクェルセチンやルチン等の比較的分子量の大きなポリフェノールで顕著なこと、クェルセチン等は皮膚の表面付近に最も多く存在し深部にまで移行するものの皮膚に留まることがわかった。 以上の研究結果より経皮吸収へのイオン対形成及びマイクロエマルションの有用性が示された。
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