研究概要 |
含硫アミノ酸のホモシステインは、各橦病態や加齢に伴って血中濃度が上昇することが知られ、コレステロールやトリグリセリドとは独立の心血管病の危険因子として現在位置づけられている。メチオニンからシステインを生合成する経路上の必須酵素Cystathionine β-synthase(CBS)の遺伝的欠損は、血栓塞栓症や精神発達遅延など重篤な病態を伴う高ホモシステイン血症の発症に繋がるが、ホモシステイン蓄積によるその病態の発症機序は詳しくわかっていない。本症のモデル動物として作製されたCBS欠損マウスは、脂質代謝異常や肝障害を呈して4週齢前にほとんど死亡するが、約5%の欠損マウスは8週齢までかろうじて生存する(体重は野生型の半分程度)。我々はこの半致死性に着目し、解析マウスの遺伝的背景を他に変えることによって致死性を回避して成体まで生存成長可能な欠損マウスを得て、ヒトではIQ値の著明な低下や新皮質の萎縮として観察される脳神経系の機能形態異常の原因を調べることを試みた。そこで、ヘテロ欠損マウスを異なる4種の近交系にそれぞれ7代バッククロスした後に作製した欠損マウスを比較したところ、ホモシステイン血中濃度が最も低いC3H/HeJ背景の欠損マウスが最も高い生存率を示し、しかも野生型に匹敵する体重を有していた。このマウスも2週齢時には重篤な肝障害・脂質代謝異常・脂肪肝を呈するが、約30%の生存個体においてはこれらの病態は寛解していた。高メチオニン血症も寛解していたが,高ホモシステイン血症は維持していた。このC3H/HeJ背景のCBS欠損マウスは小脳の形態形成に異常があり、また受動的回避学習を調べる明暗箱テストでは低い記憶学習能力を示した。本マウスは高ホモシステイン血症患者の精神神経疾患のモデルとして極めて有用と考えられる。
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