研究概要 |
代表者の所属する研究グループでは、これまでに、Alzheimer病の重要な発症因子の一つと考えられているアミロイドβペプチド(Aβ)と、その結合タンパク質としての性質が見いだされた17β-水酸化ステロイド脱水素酵素(HSD,現在当グループではAβ結合アルコール脱水素酵素(ABAD)と表記)の相互作用によりミトコンドリア機能障害とそれに関連した記憶障害と脳海馬領域での神経変性が引き起こされることを変異型アミロイド前駆タンパク質(mAPP)および(ABAD)の遣伝子を二重導入したマウスを用いて明らかとした(Science 2004)。また、この遣伝子二重導入マウス由来の培養神経細胞を用いて、ミトコンドリア機能の低下が呼吸鎖複合体IVの活性低下と密接に関連しており、ATP産生の低下、活性酸素産生の増加、ミトコンドリアからのシトクロムc遊離およびカスパーゼ3活性増加といった一連のアポトーシスシグナルの活性化をもたらすことを明らかとした(FASEBJ.,2005)。さらに、AβとABADの相互作用を阻害するペプチドがこれらの障害を抑制することを示した。これらの結果を踏まえて、本申請課題では、Aβ-ABAD相互作用によるミトコンドリア機能破綻と神経毒性発現の分子機序をミトコンドリアタンパク質ならびに遺伝子の質的・量的変化の解析を通して解明することを目的として実験計画を立案した。一方、研究計画の立案以降、上記の知見を学会にて発表した際にAβがABADと相互作用するために必要なミトコンドリアへの到達経路に関して質問を受け、Aβ-ABAD相互作用によるミトコンドリア機能破綻を議論するうえで避けては通れぬ非常に重要な課題であると認識した。そこで、平成18年度は計画を若干変更し、ミトコンドリアでのAβ-ABAD相互作用に関連する細胞内Aβ輸送経路を重点的に解析した。培養神経細胞の培地にAβを添加すると、Aβが細胞内へ移行することを免疫染色ならびにELISA法により確認した。神経細胞におけるAβ取込みは、糖化最終産物受容体(RAGE)をsiRNAでノックダウンさせた細胞あるいはRAGE抗体の共存によって抑制された。これらの結果より、Aβの神経細胞膜の透過にRAGEが関与することを明らかとした。また、培養神経細胞の培地へのAβ添加実験において、細胞内に取り込まれたAβがミトコンドリアに蓄積していること、このAβのミトコンドリア移行が透過性遷移孔(PTP)阻害薬により抑制されることをELISA法により明らかとした。Aβを処置していない細胞ではPTP形成を反映するシトクロムc遊離が見られないことを合わせて考えると、今回の知見は、Aβが神経細胞のPTP形成を誘導するとともに、そのPTPを介してミトコンドリア内に到達することを示唆するものと評価される。
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