培養中脳組織切片を用いて、ミクログリアの活性化によって惹起されるドパミンニューロンの変性誘導に対する薬物の保護作用および内因性の細胞保護機構の役割について検討した。1.前年度に見出したレチノイド受容体RARアゴニスト(Am80)の神経保護作用について、その機序の解析を進めた。Am80は中脳組織におけるBDNF mRNA発現レベルを増大させた。またBDNF中和抗体の適用はIFN-γ/LPSの誘導するドパミンニューロン死に対するAm80の保護効果を顕著に抑制した。Am80と同様の保護効果は構造の異なる別のRARアゴニストにも認められた。培養中脳組織においてRARαの発現はニューロンに、RARβの発現はニューロンおよび一部のミクログリアに認められた。したがって、RAR刺激によって産生の増大したBDNFがオートクリン/パラクリン性にドパミンニューロンを保護することが示唆された。2.ドパミンニューロン変性制御におけるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の役割について検討した。IFN-γ/LPSの誘導するドパミンニューロン死は、HO-1阻害薬や可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)阻害薬の適用によって増悪され、逆にHO-1活性化薬やcGMPアナログの適用によって抑制された。IFN-γ/LPS、NOドナー、cGMPアナログの処置は中脳組織内の細胞にHO-1の発現を誘導した。また、ドパミンニューロンにおいてIFN-γ/LPS処置後に見られるHO-1の誘導は、sGC阻害薬によって抑制された。以上の結果から、ミクログリア活性化を伴う炎症条件下において、NO-cGMP経路を介したHO-1の発現誘導がドパミンニューロンの内因性保護機構として機能していることが示唆された。
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