研究概要 |
培養ヒト体細胞の細胞老化(テロメア短縮に寄る増殖停止)とhTERT遺伝子(テロメラーゼ遺伝子)導入によるその回避の系と,早期老化(テロメア短縮のない増殖停止)とhTERT遺伝子導入細胞におけるその回避の系を用いて、テロメラーゼの持つ新たな機能を解明しようとしたが、細胞老化と早期老化の系の間で、増殖停止に至る細胞内シグナル伝達経路の違いを明らかに示すことはできず、また、早期老化の系において、テロメラーゼの発現が早期老化を回避する機構についても説明することはできなかった。 従来からの研究として、ヒト臍帯由来の血管内皮細胞へのテロメラーゼ遺伝子(hTERT)導入細胞の解析をまとめた。hTERTを導入して強発現させると、分裂限界がなくなり無限増殖能を獲得したが、その際にテロメアの短縮もテロメア末端のGテイルの短縮も防がれていた。不死化血管内皮細胞は、分化機能の多くが維持され、コラーゲンゲル内での毛細血管形成能を示す等、無限増殖能と分化機能とを発揮する幹細胞類似の細胞になっていた。ただ問題なのは、市販品も含めて、培養系に移した正常血管内皮細胞のほとんどに染色体の異常が見られたことで、hTERTによる不死化細胞を正常細胞として用いることには問題がある。 間葉系幹細胞は、移植医療への応用を視野に注目され、培養系で増殖させる方法が模索されているが、増殖能、テロメラーゼ活性、分化能等が低下するなど問題が多い。hTERTの導入によって改善されるとの報告はあるが、遺伝子導入細胞を移植に使うことには問題である。疑似的無重力状態を作る装置によって培養したところ、間葉系幹細胞の増殖能が著しく改善され、軟骨を再生する能力を維持していた。内因性のテロメラーゼ活性が上昇していると予想したが、活性は低いままだった。
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