研究課題
基盤研究(C)
麻疹の病態形成においてウイルスによる免疫抑制とそれにともなう細菌の二次感染が重要と考えられており、様々な免疫抑制機構が提唱されている。私達は、単球系の細胞株で麻疹ウイルス感染によって、転写因子NF-κBの.活性化が抑制されていることを見出した。この現象が麻疹ウイルスによる新奇の免疫抑制機構と考え、その分子機序を検討した。ヒト単球系細胞株THP-1およびU937の麻疹ウイルス持続感染細胞株を作製した。感染細胞は、LPS刺激によるIL-8誘導およびNF-κBの活性化がほとんど認められなかった。LPS刺激によって誘導されるTAB2とTRAF6の結合が認められず、NF-κB活性化の情報伝達に必須なTAK1/TAB2/TRAF6複合体の形成がウイルスによって抑制されていると推定した。感染細胞で宿主のNF-κBのネガティヴレギュレーターであるA20の発現増強が認められ、RNAiを用いたA20の発現抑制により、LPSによるIL-8産生誘導が回復した。また、ウイルスのphosphoprotein(P蛋白質)のA20プロモターへの間接的な相互作用と、転写活性化能が認められた。一方、上皮系の感染細胞株では恒常的なNF-κB活性化が認められた。以上の結果から、麻疹ウイルスのP蛋白質が感染単球系細胞で宿主のA20を恒常的に発現させることによって、ウイルス自体あるいはLPS刺激によるNF-κBの活性化を抑制していると推定した。麻疹ウイルスが血球細胞に感染し、血行性に全身感染へ移行する過程において、炎症反応を惹起しない状態の感染単球系細胞は、宿主からの排除を逃れることで全身移行に有利にはたらいていると考えた。P蛋白質欠損ウイルスが、宿主免疫抑制を起こさないウイルスの候補として、ワクチンなどへの応用が期待される。
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