小胞体ストレスによって発現誘導され、小胞体ストレス誘導性のアポトーシスを調節する分子として申請者らが見出したpseudokinase TRB3はある種の腫瘍で高発現していることが知られている。そこでまず、TRB3の細胞増殖における機能を細胞周期の観点から検討した。HeLa細胞において細胞周期関連phosphatase、CDC25AとTRB3を強制発現させると、CDC25Aの発現が低下する傾向が見られた。一方、RNAi法を用いてTRB3をknockdownさせると、内因性のCDC25Aの発現が増加した。また、以前の結果からTRB3は細胞周期依存的に発現し、G2/M期における発現がCDC25Aの発現と逆相関することから、TRB3をknockdownして周期変化を調べると、CDC25AのM/G1期における発現低下が抑制されると同時に、細胞周期の進行がG2/M期で遅延することが示された。以上からTRB3がG2/M期における細胞周期の進行に関与しており、その機序の一つとしてCDC25Aの発現制御を阻害することが示唆された。 次に、細胞分化への影響について検討した。マウス由来前駆脂肪細胞3T3-L1の脂肪細胞分化過程におけるTRB3の発現変化を調べたところ、分化初期には一時的に低下し、その後分化に伴って徐々に上昇することがmRNA、タンパクレベルで示された。この発現パターンはストレス誘導性の転写因子CHOPの発現と連関していた。3T3-L1細胞にTRB3を過剰発現させると、細胞内のTriglycerideの総量、および脂肪細胞分化のマスターレギュレーターPPARγの標的遺伝子mRNA発現量が対照群に比べ有意に減少した。一方、TRB3 shRNAによるknockdownを行うと、脂肪細胞分化は逆に強く阻害された。また、TRB3とPPARγは細胞内で結合し、PPARγの過剰発現による脂肪細胞分化もTRB3の強発現により強く抑制された。以上のことからTRB3はPPARγの転写活性を負に制御することで脂肪細胞分化を抑制することが示された。
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