本研究では、腫瘍血管新生において重要な役割を担う低酸素応答性転写因子HIFの3つのアイソフォームのうち、内在性の抑制因子としてはたらくHIF-3αに注目し、その性状を明らかにし、かつその抗腫瘍効果を検討することを目的とした。その結果、HIF-3αのsplicing variantの1つ、HIF-3α2について以下のような結果を得た。 1.HIF-3α2の転写抑制能:HIF-3α2は他のsplicing variantであるHIF-3α1とほぼ同一の構造をもち転写活性化ドメインを有するにも関わらず、低酸素応答配列(HRE)を介する転写を全く活性化せず、別のHIFのアイソフォームであるHIF-1や-2によるHREを介した転写を抑制した。HIF-3α2のC末端の欠失変異体を用い、HIF-3α2のC末端12個のアミノ酸からなる領域がその転写活性化能を抑制していることを明らかにした。また、HIF-3α2タンパク質が通常酸素下では不安定であり、低酸素状態で安定化されることも見出した。 2.HIF-3α2の抗腫瘍効果の検討:HIF-3α2の発現ベクターをヒト腎細胞癌由来VMRC細胞に導入したところ、ベクターの用量に依存し、低酸素によるHREを介した転写、GLUT-3発現のいずれもが抑制されることがわかった。さらに、ヌードマウスの皮下にVMRC細胞を移植すると癌が形成されるが、腫瘍組織内にHIF-3α2の発現ベクターをHVJ-リポソーム法により導入すると、このヌードマウスに形成される癌の増殖が抑えられることもわかった。HIF-3α2はそのHRE依存的転写の阻害作用により抗腫瘍効果を示すと考えられた。
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