研究概要 |
リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼは小胞体などの膜画分に存在しており、アシルCoAの脂肪酸をリゾリン脂質へ転移し、リン脂質を合成する酵素(系)である。1-アシルリゾリン脂質を基質とした場合、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸のCoAに特異性が高いことから、元来、リン脂質に不飽和脂肪酸を導入する役割の酵素系とされてきた。しかし、研究の過程で、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ系酵素が逆反応を効率よく触媒することを発見した。本研究は、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ系酵素の逆反応の性状とその生理的な意義について研究した。 1)セミインタクト細胞を用いた実験系の導入 ジギトニンで細胞膜を透過性にしたセミインタクト細胞に、CoAを添加することでアシルCoAが生成することを見いだした。アシルCoA合成酵素の阻害剤であるトリアクシンCで阻害されないことより、膜画分を用いたリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの逆反応が細胞レベルでも再現された。 2)リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの阻害剤の影響 リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの阻害剤として知られるCI-976が、CoAを加えた場合と同様にゴルジ体の崩壊現象を引き起こし、ばらばらになったゴルジ体は最終的に小胞体へ輸送された。CoAの作用が、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼの逆反応を介していることを強く示唆する結果である。 3)ゴルジ膜に存在するリゾリン脂アシルトランスフェラーゼの性状を生化学的、酵素学的な解析 ラット肝臓からゴルジ体を精製し、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ活性を検討した。リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジン酸など、様々なリゾリン脂質に対するアシルトランスファラーゼ活性が監査値された。また、脂質を吸着することができるアルブミンを添加すると逆反応が観察された。FABPなど脂質結合タンパク質が,逆反応を調節する因子となりうることが考察された。 4)アシルトランスフェラーゼの遺伝子の同定 アシルトランスフェラーゼ候補蛋白質の遺伝子を数種類クローニングし、哺乳動物での発現系を構築した。現在、生化学的な性状を検討中である。
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