本研究ではウェルナー症候群と確定診断されていたにもかかわらず、分離された培養細胞の分裂寿命が長い患者がいることを見いだし、患者由来細胞の性格付けを行ってきた。この疾患患者群は便宜的に疑ウェルナー症候群(Questionable Werner's syndrome; Q-WS)と名付けられ、日本国内で細胞バンクに登録されたものを含めて少なくとも3〜4例が発見されている。この症例の存在は早期老化兆候が必ずしもテロメア長に規定される細胞の分裂寿命短縮によるものではなく、分裂寿命に影響を与えない他の経路によっても引き起こされる可能性があることを示唆している。本研究の目的は、WSと同様の臨床症状を示しながら細胞の分裂寿命が短縮していないQ・WSの早期老化症状を引き起こす原因遺伝子あるいは発現クラスターの解析を行うことによって、新しい老化の分子モデルを提案するとともに、モデル動物を人為的に作出して新規の老化モデルの構築を試みることである。これらの研究を展開することによって、老化あるいは老衰の制御に道を開くことが本研究の最終的な目的である。Q-WS細胞において、遺伝情報品質管理機構のひとつである、ナンセンス変異依存mRNA分解機構を特異的にノックダウンし発現が回復する遺伝子群をDNAマイクロアレイシステムで同定することによって原因遺伝子のスクリーニングを行った。現在までに染色体構造に関する解析および発現アレイによる解析から欠損している遣伝子群のスクリーニングを終えている。候補遺伝子は200個程度まで絞り込まれている。また、染色体の構造異常についても解析を行ったものの、明確な異常は見いだせなかった。
|