骨格筋の分化形成過程では、前駆細胞である筋芽細胞が分化のある時期になると一斉に融合し多核の筋管を形成する。筋管形成機構を解明する一環として、未だ筋管形成には至らない形質転換ウズラ胚筋芽細胞(QM-RSV細胞)と、筋管形成を開始したQM-RSV細胞の各々で発現している遺伝子集団を用いてsubtraction法を行い、筋管形成時に発現量が増加する一遺伝子(AB128922)を得た。筋分化過程でのこの遺伝子の発現増加を抑制すると筋管形成が阻害される事、未分化QM-RSV細胞でこの遺伝子産物を強制発現させると神経細胞様の突起を誘導する事、及び微小管重合阻害剤がこの突起形成を阻害する事等から、本遺伝子産物は筋管形成や微小管の動態に関与すると考えられる。昨年度、酵母two-hybrid法を用い本遺伝子産物と結合する蛋白質を探索した結果、本遺伝子産物がNCAM(neural cell adhesion molecule)結合蛋白質である事が示唆された為、MYONAP(myogenesis-related and NCAM-associated protein)と命名した。本年度は、引き続きMYONAPの特性を調べる一環としてMYONAPのNCAM結合部位を特定する事を試みた。方法は酵母Two-hybrid法を利用した。MYONAPの全長cDNAを幾つかの断片に分け、各々がコードする蛋白質を酵母内で発現させ、NCAMとの結合性の有無を酵母の栄養要求性とα-galactosidase活性を指標に検討した所、MYONAPの第173から207番目のアミノ酸領域がNCAMと強い結合性を有する事が分かった。又、第315から470番アミノ酸領域もNCAMと弱い結合性を示した。第173から207番目アミノ酸領域を欠損するMYONAPをQM-RSV細胞に強制発現させた所、神経細胞様の突起は形成されず、MYONAPによる神経細胞様突起形成にはNCAMとの結合が関与する事が示唆された。更に第173から470番目のアミノ酸領域(NCAMと結合する可能性のあるすべての領域)を欠いたMYONAPの強制発現では、神経細胞様突起が形成されないのに加え、強制発現させた変異MYONAPが微小管と共局在する事を観察し、MYONAPが一時的或いは条件的に微小管と結合する可能性も示唆された。
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