EGF受容体ファミリーのメンバーにはEGFR、 ErbB2、ErbB3およびErbB4が含まれ、これらメンバー間のホモダイマーおよびヘテロダイマーの形成が細胞増殖および生存のシグナル伝達に必須である。通常、このシグナルは厳密にコントロールされているが、非小細胞肺癌、乳癌など多数のがんにおいて、EGF受容体ファミリーの過剰発現や変異が見つかり、これらの異常ががん化に関わっていることが報告されている。本研究は、EGF受容体ファミリーの異常が、がん化に関与している肺癌由来細胞株を探しだし、次に、この細胞株を用いてEGF受容体ファミリーメンバー間の二量体形成を阻害する抗体を見出し、EGF受容体ファミリーを標的とした分子標的抗がん剤の開発を目指している。ヒト非小細胞肺癌株、PC-9、PC-14、A549細胞をEGF受容体チロシンキナーゼの特異的な阻害剤(AG1478)およびErbB2特異的阻害剤(AG825)で処理したところ、AG1478に対してはPC-9のみが感受性を示し、AG825に対しては、いずれの細胞株も抵抗性を示した。PC-9の増殖・生存にEGFRからのシグナルが必須なことが分かったので、この細胞株に、慶應大学医学部・清水信義教授から分与されたEGFRに対する抗体(B4G7)を加えたところ、予想に反して、細胞増殖の促進されることが分かった。B4G7はPC-9細胞のEGFRおよび下流の分子(MAPK、 Akt)のリン酸化を促進した。また、EGFR抗体を用いて得られた免疫沈降物中のErbB2量を調べると、EGF処理により増加するが、B4G7処理細胞では増加が見られなかった。以上の結果より、B4G7はEGFR/ErbB2のヘテロダイマー形成を阻害するがEGFR/EGFRのホモダイマー形成は促進することが示された。現在、ホモダイマー形成も阻害する抗体の作成を計画している。
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