細胞内脂肪滴はほぼ全ての体細胞に存在する球形のユニークな細胞内小器官であり、生理的には中性脂肪貯蔵・膜脂質代謝・エネルギー産生等に重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、その形成機構については不明な点が多い。医学薬学的見地からも脂肪滴は肥満・脂肪肝等の本因であり、その形成機構を知ることは、これらに付随した病態の解析・治療にも有用である。また、C型肝炎ウイルス感染と脂肪滴の関連も近年注目されており、これらの解析を通じて脂肪滴の新たな機能・形成機構が明らかになってくる可能性が考えられる。 本年度(平成21年度)は、ヒト培養肝細胞(Huh7細胞)を用いて、C型肝炎ウイルス増殖と脂肪滴の関連について検討を行った。まず、C型肝炎ウイルス感染により脂肪滴蛋白質に変動が見られるかプロテオーム解析を行った。脂質代謝に関連する分子を含め従来脂肪滴に分布していた分子は全て感染細胞由来の脂肪滴にも存在しており、ほとんど変化が見られなかった。一方、感染細胞の脂肪滴の特徴として、RNA結合能を有する分子が複数同定されるという結果が得られた。脂肪滴近傍ででウイルスが増殖する可能性が示唆されており、このこととの関連を踏まえ、今後この分布変動の原因を明らかにすることは非常に重要と考えている。また、様々中性脂質代謝(生合成)に関与する酵素の阻害剤で細胞を処理しウイルス増殖への影響を見たところ、コレステロール生合成阻害剤によりウイルス増殖が強く抑制されることが見いだされた。当該阻害剤処理により細胞内コレステロール量はほとんど変化しなかったが、脂肪滴の主要成分である細胞内コレステロールエステル量は有意に低下した。脂肪滴を構成するもうひとつの主要な中性脂質であるトリグリセリド量も変化が見られなかったことから、脂肪滴中のコレステロールエステル含量がウイルス増殖に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。
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