ManassantinBは、Saururus cernuus L.(Saururaceae)より単離された天然物であり、がんや脳梗塞、心臓梗塞などの病態との関連あるとされるHIF-1αをIC_<50>値3nMで阻害するのみならず、低酸素状態で誘導されるVEGFの産生を10〜100nMの濃度で選択的に抑制する。ManassantinBはこれまでの阻害剤とはまったく異なる構造を有しており、新規HIF-1α阻害剤のリード化合物として期待される。 我々は、manassantinBを新規HIF-1α阻害剤のリード化合物として、誘導体合成に適した基本的合成法を確立し、必須構造をつきとめて構造の単純化を行い、合成の容易な新規HIF-1α阻害剤を開発することによって、生物学的研究に必要なツールを世に送り出すことを目的に本研究に着手した。今年度は、manassantinB合成の鍵となる全炭素原子が置換されたTHF環部の骨格合成を確立するためにアリール基の官能基を簡略化したモデル化合物の合成を検討した。市販の4-メトキシベンズアルデヒドから数工程で合成した(E)-4-(tert-butyldimethylsilyloxy)-1、4-bis(ρ-methoxyphenyl)-2-buten-1-oneのエノン部に対して種々の有機銅試薬を用いて立体選択的なメチル化を試みた。その結果、Gilman試薬では収率71%、30:1dr、Gilman試薬にBF_3添加した条件では収率72%、33:1drの高い選択性でメチル基をアンチ付加させることができた。また、隣接位置への2つ目のメチル基の導入はエノラートのメチル化により行い、HMPA存在下、KHMDSを塩基に用いることで収率99%、14:1drの高選択性で導入できた。最後にTHF環を構築し、2、5-ジアリール-3、4-ジメチル-THFリグナン骨格を完成することができた。本化合物はmanassantinBのTHF環部の2位エビ体に相当し、その生理活性に興味がもたれる。今後さらに他の立体異性体の合成に適用可能な骨格合成法を検討してゆく予定である。
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