研究概要 |
我々のグループは、ラット小脳初代培養系を用いて種々のプリン化合物の神経細胞死に及ぼす影響を解析し、新たにアデニンが小脳プルキンエ細胞の細胞死を抑制する効果を有することを見出した(J. Neurosci. Res., 74,754-759,2003)。 昨年度は、このアデニンの新規作用の分子機構の解明を目指し、アデニンの神経細胞死抑制効果を担う可能性を有する一連の受容体の単離を試みた。具体的には、degenerate PCRによるラット小脳初代培養系においてアデニンの有無で発現に差異のあるGタンパク質共役型受容体遺伝子を同定することを目指したが、発現に有意差のある遺伝子は認められなかった。 そこで本研年度は、作業仮説を転換し、小脳プルキンエ細胞に細胞傷害性を及ぼす可能性のある細胞群に対するアデニン効果の検討を行った。候補細胞群としては、神経組織に由来するミクログリア細胞、血液に由来するマクロファージが考えられた。検証実験では、ラット脳から単離したミクログリア、単芽球性リンパ腫U937細胞から分化させたマクロファージ様細胞を始め、種々の培養細胞を用いて検討した。その結果、これらの細胞に対し、アデニン、シトシン、チミン、ウラシルの4塩基中では、アデニンのみが強い細胞死誘導活性を有することが判明した。また、この細胞死は典型的なアポトーシスとは異なり、カスパーゼ非依存性の細胞死であることも明らかとなった。さらに、アデニンの保護作用が貪食細胞群の排除にあることの裏付けとして貪食阻害剤の小脳初代培養系への効果も検討し、アデニンと同様に小脳プルキンエ細胞の選択的生存効果が認められた。これらの結果は、初代培養系におけるプルキンエ細胞の選択的培養にアデニンが有効であることを示しているだけでなく、損傷を受けた神経組織の保護に貪食細胞による食作用の阻止が有用となる可能性を示している。
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