研究概要 |
これまでの研究により、私達は強い変異原性を示した大阪府高槻市の表層土壌から新規化合物である3,6-dinitrobenzo[e]pyrene(DNBeP)が主要な変異原性物質として分離・同定した。さらに、強い変異原性を示した大阪府泉大津市及び高石市並びに愛知県名古屋市及び碧南市の表層土壌について同様の検討を行った結果、3,6-DNBePが主要な変異原性物質として検出された。3,6-DNBePのネズミチフス菌に対する変異原性は極めて強く、1,6-及び1,8-dinitropyrene(DNP)のそれに匹敵するものであり、3,6-DNBePは発がん性を示す可能性が高いと予想される。このため、環境中の3,6-DNBeP量を明らかにすることはヒト健康へのリスクを予測するために重要であると考え、環境中の3,6-DNBePの精製法及び高感度分析法を確立するとともにそれらの方法を用い、大気粉じん及び表層土壌中に含まれる3,6-DNBePの分析を行った。 近畿地区の5地点において採取した表層土壌5試料を分析したところ、すべての試料から3、6・DNBePが検出され、土壌1gあたり347〜5004pgであった。また、これらの表層土壌抽出物の変異原性に対する3,6・DNBePの寄与率を算出したところ16.5〜30.6%であった。一方、京都市、大阪市及び東京都港区において採取した大気粉じん7試料を分析したところ、すべての試料から3,6・DNBePが検出され大気1m^3あたり137〜1238fgであった。これらの結果から、3,6・DNBePは広く表層土壌及び大気中に存在しており、表層土壌中の主要な変異原性物質であると考えられた。
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