研究概要 |
冬虫夏草は古来より中国において滋養強壮薬として用いられており、また、その特有の成分としてコーディセピン(3 '-deoxyadenosine)を含有している。我々は、これまでに培養冬虫夏草水抽出物(water extract of Cordyceps sinensis ; WECS)及びコーディセピンが、がん転移抑制作用を有することを報告してきた。今年度は、コーディセピンの生体内分解酵素であるアデノシンデアミナーゼの阻害剤を併用することによりWECS及びコーディセピンの抗がん作用がどの程度増強されるかをin vitroにおいて検討した。 がん細胞としてマウスの高転移性B16-BL6 melanoma(B16-BL6)細胞とLewis lung carcinoma(LLC)細胞を用いた。これらのがん細胞にWECS(1,3 and 10 μg/mL)あるいはコーディセピン(3,10,30 and 100 μM)を処置し、24、48、72時間後の生細胞数をコールターカウンターを用いて測定し、細胞増殖曲線を作成した。また、アデノシンデアミナーゼ阻害剤である2'-deoxycoformycin(DCF)5μMの共存下においてWECS(1 and 3μg/mL)あるいはコーディセピン(0.1 and 0.3 μM)を処置し、同様に細胞増殖曲線を作成した。WECS及びコーディセピンは、いずれの細胞に対しても増殖抑制作用を示した。また、この作用はDCFの併用により著しく増強され、いずれの細胞の場合にもWECSで約3倍、コーディセピンで約300倍有意な活性亢進が認められた。なお、DCF単独では、全く抗がん作用を示さなかった。 今回の結果より、WECS及びコーディセピンのがん細胞増殖抑制作用はDCFの併用により著しく増強されることが明らかとなった。このことは、WECS及びコーディセピンの抗がん剤としての臨床応用に対して有益な知見である。
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