コウモリガの幼虫に子嚢菌が寄生して成長した冬虫夏草の子実体のみの人工培養物をがん転移抑制薬として臨床応用するための手法を開発することが、本研究課題の最終的な目的である。今年度は、高転移性のマウスメラノーマB16-B16細胞をC57BL/6Crマウスの足蹠皮下に接種し、2週間後に増大した原発巣を1切除するin vivo自然がん転移モデルを用いて、冬虫夏草培養子実体の水抽出物(Water Extract of Cordyceps sinensis;WECS)のがん転移抑制作用をモデルマウスの生存日数延長により詳細に検討した。 まず、前年度の研究成果により、in vitroにおいてWECSの抗がん作用を3倍増強させたテデノシンデアミナーゼ阻害薬2-deoxycoformycin(DCF)は、腹腔内投与により単独あるいはWECSとめ併用のいずれにおいてもがん転移抑制作用を示さなかった。一方、WECS 10mg/kgをがん細胞接種日から7日間連続1日1回及び原発巣切除翌日から7日間連続1日1回腹腔内投与したマウスの生存日数は、がん細胞接種後53日以内に全例が死亡した対照マウスと比べて有意に延長された。また、WECS 10mg/kg投与マウスの6匹中3匹はがん細胞接種後110日以上生存し、さらに、体重減少や脱毛などの副作用は観察されなかった。なお、WECS 3mg/kgの投与量では、有意ながん転移抑制効果は認められず、WECS 100mg/kgの投与量では、対照マウスに比べて有意な体重減少が認められた。 従って、WECSを臨床応用するためには、コーディセピンをはじめとするWECS中の有効成分を出来るだけ絞り込み、不必要な成分を取り除くことにより抗原性を押さえた注射剤として開発することが、最も有力な方法であると結論付けられた。
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