研究概要 |
本研究では、食品中に含有される有機化学物からシアンが非特異的に生成する機構を解明することを目的として、本年度は各種ポリフェノール類と亜硝酸との反応により生成するシアンの量を分析化学的に測定した。食品として市販インスタントコーヒー、ウーロン茶を選択し、各種ポリフェノール類と関連化合物をシアン生成母化合物とした。8.7mL容のヘッドスペース用ガラスバイアルに対象化合物(基本として水溶液で、溶解性が低い場合にはメタノール溶液として)を加え純水で0.75mLとし、1M亜硝酸ナトリウム0.05mLと酸0.2mL(50%リン酸、または3M酢酸ナトリウム(pH5.0)、液相は1mLとなる)を混和して、50℃で30分間加温し、ヘッドスペース相0.5mLをガスクロマトグラフ(GC)に注入して、シアンピーク(2.2分)の面積を求めたGC条件は、ポーラスポリマーキャピラリーカラム(メガボアGS-Q)を分離カラムとし、窒素リン検出器を用い、スプリット注入5:1、カラム温度140℃、He流速5ml/minである。市販インスタントコーヒー(ネスカフェゴールドブレンドオリジナル、0.15%w/v)、ウーロン茶(アサヒ一級茶用,75%v/v)から、50mM亜硝酸共存でリン酸酸性下1.2μg/mL、2.9μg/mL、酢酸酸性下0.4μg/mL、0.5pg/mLのシアンが生成した。天然カテコールであるクロロゲン酸、カフェイン酸、カテキン、エピカテキン、タンニン酸、ガーリック酸、L-エピネフリンから、50mM亜硝酸共存でシアンが生成し、0.75mMにおいて1.7〜3.4pg/mL(リン酸)、0.6〜4.5pg/mL(酢酸)であった。同様に、人工カテコールであるp-ベンゾキノン、p-ヒドロキノン、フロログルシノール、1,2,4-ベンゼントリオール、レゾルシノール、ピロガロール、プロトカテキン酸、ピロカテコール、2,5-ジヒドロ安息香酸、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノンから、50mM亜硝酸共存でシアンが生成し、0.75mMにおいて0.5〜6.7pg/mL(リン酸)、0.1〜15pg/mL(酢酸)であった。シアン生成量は、カテコール化合物濃度依存性であり、高濃度(概ね数mM)において生成量の低下が見られた。また、亜硝酸濃度にも依存し、高濃度で生成量は若干飽和した。シアン生成量は、正の温度、時間依存性があった。pH依存性も認められ、ポリフェノール類の大半は低pHでシアン生成量が高いが、フロログルシノールとカフェイン酸は逆であった。なお、置換フェノール誘導体からも微量ながら50mM亜硝酸共存でシアンが生成し、0.75mMにおいて0〜0.9μg/mL(リン酸)、0.02〜0.7pg/mL(酢酸)であった。本研究で、化学構造上窒素を含有しないポリフェノール類と亜硝酸は酸性条件下反応し、シアンを生成することが判明し、最大生成条件においてはカテコール分子当たり同量、亜硝酸窒素分子当たり10%程度のシアン生成量であった。水酸基の配向性は特に認められなかった。食品中には保存のために亜硝酸が添加され、発酵食品中にはポリフェノールが含有される場合がある。従って、両者の混合で酸性条件となった場合には非特異的にシアンが生成し、条件が整えば中毒濃度にも達する場合もあり、注意を要する。ポリフェノールからシアンの生成を証明したのは本研究が世界ではじめてである。
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