研究代表者の小暮が開発に取り組んできた非ウイルス性遺伝子デリバリーシステムであるオクタアルギニン(R8)修飾多機能性エンベロープ型ナノ構造体(R8-MEND)のin vivoへの応用を目指して、マウスの皮膚毛孔(毛包)をターゲットとして、毛包を介した遺伝子デリバリーの可能性を探るため、以下の検討を行った。 R8-MENDによる毛包への遺伝子送達機能の詳細を解析するために、マーカー遺伝子として、LacZ、ルシフェラーゼ、EGFPなどをコードするプラスミドDNAを用い、ICRマウスの皮膚にR8-MENDを塗布後、3日後の皮膚切片における遺伝子発現を解析した。残念ながらルシフェラーゼの場合には、解析する皮膚組織に対する発現量が少なかったため、有意な発現活性を検出することは出来なかった。しかし、EGFPおよびLacZをコードするプラスミドDNAを用いた場合、毛包における遺伝子発現を検出することに成功した。すなわち、これまで発現部位であろうと予想していた毛包の幹細胞が存在する部位(Bulge region)において、皮膚切片中にEGFPの緑色の蛍光およびβ-gal陽性染色像を得ることに成功した。この結果は、これまで毛幹にEGFPおよびβ-gal陽性染色が認められたことを説明するものであり、おそらく、R8-MENDによって幹細胞に導入され、マーカータンパク質を発現した幹細胞が毛幹に分化したために、毛幹にマーカータンパク質が観察されたのであろうと推察される。さらに、理化学研究所の山田博士が見出した毛成長関連遺伝子であるBone Morphogenetic Protein type IA receptor (BMPR1A)をコードするプラスミドをR8-MENDに封入し、4週令のICRマウスの背中皮膚に塗布し、2週間後(6週令)に毛包を観察したところ、コントロールであるEGFPプラスミド封入R8-MENDでは毛周期に伴う毛包の皮膚上部への顕著な移動が観察されたのに対し、BMPR1A遺伝子封入R8-MENDでは、4週令時とほぼ同じ位置に毛包が観察された。このことは、R8-MENDによって導入されたBMPR1A遺伝子によって毛周期が遅延されたことを示唆しており、このことからR8-MENDによって導入された遺伝子はその機能を発揮できることが証明された。
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