研究代表者の小暮が開発に取り組んできた非ウイルス性遺伝子デリバリーシステムであるオクタアルギニン(R8)修飾多機能性エンベロープ型ナノ構造体(R8-MEND)のin vivoへの応用を目指して、マウスの皮膚毛孔(毛包)をターゲットとして、毛包を介した遺伝子デリバリーおよびsiRNAデリバリーの可能性を探るため、検討を行った。siRNAを封入したMENDの塗布による目標遺伝子の抑制を試みたが、有意な遺伝子抑制効果を得るに至らなかった。これまでに、毛成長の抑制など「現象」としての遺伝子送達は確認できていたが、実際に毛孔内部に核酸が送達された証拠を得ていなかったので、ラベル化したsiRNAを用い皮内動態を解析したところ、非常にわずかのsiRNAが毛孔内奥に観察された。そこで確実に毛孔および皮内にMENDを送達する技術を確立することを目指し、イオントフォレシスを利用して、MENDを毛孔及び皮内への送達を試みた。MENDのモデルとして、大きさ及び荷電状態などが異なる種々のリボソームについてイオントフォレシスを行い、皮内動態を観察した。その結果、小さい粒子径のものよりも400nm程度の比較的大きなものが、さらに負電荷よりも正電荷を有するものが送達されやすいことが明らかになった。さらに、モデル薬物を封入したリボソームを用いた検討から、リボソームは構造を保持した状態で送達されていることが見出された。興味深いことに、in vitro実験では毛孔内部のみにリボソームが観察されたが、in vivo実験では毛孔のみならず周辺皮膚に広く分布することが明らかになった。この結果は、これまでに報告されておらず、新たな効率よいナノ粒子の経皮送達方法として有効であり、より効率よくMENDを送達することで、目的遺伝子の発現を有意に抑制できると期待している。
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