信州大学において妊婦に処方された薬剤は、副腎皮質ステロイドホルモン類、切迫早産治療薬、ビタミンD_3製剤、甲状腺ホルモン製剤、向精神薬などであった。そこで、これら薬物のうち、副腎皮質ステロイドホルモン類のCYP3A4、CYP3A5及びCYP3A7の発現に及ぼす影響について検討した。医療に用いられる典型的な副腎皮質ステロイドホルモン8種(最終濃度10nM)について検討した。その結果、ベタメタゾン及びデキサメタゾン(DEX)によりCYP3A4及びCYP3A7は顕著に誘導された。また、CYP3A5も誘導されたが、CYP3A4及びCYP3A7ほど顕著ではなかった。副腎皮質ステロイドホルモンの抗炎症作用とCYP3A分子種、特にCYP3A4及びCYP3A7とに高い相関性が認められた。グルココルチコイド受容体(GR)のsiRNAをアデノウイルスにて導入したところ、顕著にGRの発現が抑制された。さらに、DEXによるCYP3Aの誘導はいずれの分子種においても顕著に抑制されたことから、HFL細胞におけるDEXによるCYP3A分子種の誘導はGRを介する直接的な経路によることが明らかになった。また、普通分娩または帝王切開にて得られた卵膜(羊膜及び絨毛膜・脱落膜)における薬物代謝酵素および薬物トランスポーターの発現をmRNAレベルで解析した。羊膜には、CYP3A4及びCYP3A7のmRNAは検出できなかった。一方、CYP3A5に相当するバンドは、解析した5検体全てに認められたが、発現量に顕著な個人差が見られた。また、絨毛膜・脱落膜においてはCYP3A4及びCYP3A7は検出されなかったが、CYP3A5、MDR1及びBCRPの発現が認められた。Real time PCRでの解析の結果、MDR1及びBCRPの発現量に個体差は見られなかったが、CYP3A5に関しては羊膜と同様顕著な個人差が認められた。一方、CYP3A4及びCYP3A7については、絨毛膜・脱落膜でも検出できなかった。
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