遣伝子医薬品が薬のひとつとして反復投与される時代の到来が期待される。これらの遣伝子医薬品は、細胞への標的化や遺伝子の導入発現において、様々なベクターが必要である。臨床において患者が遺伝子医薬品や遺伝子製剤による治療を受ける揚合、多くは何らかの疾患を持ち、さらには複数の薬物が投与されている。しかし、疾患や薬物が、遣伝子デリバリーに及ぼす影響を系統的に研究した報告はまだない。 我々は、モデルpDNAとして、CMVプロモーターを有し、ホタルルシフェラーゼ(Luc)をコードしたpCMV-Lucを用い、疾患モデルを作成し、遺伝子デリバリーに及ぼす疾患の影響をまず検討した。遺伝子デリバリーのためのベクターとしては、代表的なカチオン性高分子であるポリエチレンイミンの直を用い、遣伝子複合体を形成させた。 (1)肝炎惹起物質として四塩化炭素をマウスに投与し、肝炎モデルを作成して生化学的・解剖学的観察を行った結果、投与後18時間にダメージが最も高く、48時間で直接的なダメージが減少し、168時間には肝機能が正常に再生することを確認した。そこで、遺伝子複合体を各病期で投与した。その結果、肝炎惹起18時間目に肝臓における遺伝子発現が対照群より有意に減少し、再生期と考える48時問目で有意に増加することが示された。168時間目には、肝炎惹起群と対照群で差は認められなかった。また、直鎖と分岐鎖の高分子で遣伝子発現の影響に違いが観察された。 (2)化学物質の直接の影響を除くため、肝臓の3分の1切除による遺伝子発現への影響を検討した。肝臓切除群は肝臓切除後72時間以内で急速に肝臓が再生し、168時間目には肝機能が正常に回復した。遺伝子複合体を各状態で投与した。その結果、肝臓切除群は肝臓再生が盛んな切除後48時間において、肝臓の遣伝子発現が対照群に比較して有意に増加した。他の臓器では有意な変化は認められなかった。 (3)以上の結果は、遺伝子発現が、疾患の病期および製剤によって変動することを示すものであり、今後の遺伝子治療を設計する上で重要な知見である。 (4)その他、局所における遺伝子製剤のデリバリー効果、ベクターとしてのリボソームの動態制御、リボソームの成分となるカチオン性脂質の毒性や効果に関する知見を得ている。 今後、これらの結果を蓄積し、定量的に解析することで、遺伝子治療の治療指針を作成する予定である。
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