【背景】臨床上、抗がん剤paclitaxelの副作用として末梢神経障害や白血球減少症が高頻度に発生し、特に末梢神経障害は、用量規制因子であるため、患者QOLを著しく低下させることが問題となっている。今回我々は、paclitaxelによる末梢神経障害モデルラットを作製し、末梢神経障害のメカニズムを解明するために、モデルラットの後根神経節部位における網羅的遺伝子発現解析を行い、いくつかの発現変動遺伝子について検討した。【方法】SD系ラット(200-300g)にpaclitaxel(8mg/kg)を腹腔内投与し、末梢神経障害モデルラットを作製した。末梢神経障害の行動学的評価は、von Frey式dynamic plantar aesthesiometer(Ugo Basile)による機械刺激試験並びにアセトン試験にて行った。末梢神経障害モデルラットの後根神経節における網羅的遺伝子発現解析は、Rat Genome 230 2.0を用いたクラボウDNAマイクロアレイ解析にて行った。また、後根神経節でのマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP3)発現はRT-PCR並びにウエスタンブロット法により検討した。【結果・考察】今回作製したpaclitaxelによる末梢神経障害モデルラットの行動学的評価を機械刺激試験にて検討したところ、13日目から痛覚閾値の低下が認められ、28日目まで持続した。また、アセトン試験では6日目から逃避行動頻度の増加が認められ、28日目まで持続した。一方、体重の変動については、両群間で差は認められなかった。続いてpaclitaxelによる末梢神経障害モデルラットの後根神経節における網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、MMP3やマクロファージ関連遺伝子の発現が増加していた。MMP3は細胞外マトリックス構造を分解する酵素で炎症の際に発現が増加することが知られる。したがって、paclitaxelによる末梢神経障害の発症にマクロファージやMMP3の集積が関与する可能性が考えられた。
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