研究概要 |
薬剤性肝障害のうち特異体質性肝障害の多くは免疫学的機序によるものと考えられており、メカニズムとしてハプテン仮説やそれを補足する危険信号仮説が提唱されている。しかし、危険信号そのものが同定されていないために、両仮説とも肝障害メカニズムとしては仮説の域を出ていない。本研究では、薬剤性肝障害において危険信号仮説を実証するためのアプローチとして、まずToll様受容体(Toll-like receptor, TLR)の関与を明らかにし、危険因子となり得る内因性リガンドを同定することを試みた。また、危険信号として仮想されている細菌感染や他の疾患に由来する炎症性因子の関与を調べるため、大腸炎等他の疾患モデルを作製しそれらの薬剤性肝障害感受性を検討した。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を経口投与またはトリニトロベンゼンスルホン酸の直腸投与により実験的大腸炎モデルを作製したところ、これらのラットの門脈血中エンドトキシン濃度は上昇が見られた。大腸炎モデルでは四塩化炭素誘発性の肝障害は、むしろ抑制傾向が見られたが、これはCYP2E1等のDown-regulationによりラジカル生成が低下したためと推定された。そこで肝毒性発現に代謝活性化を要しないD-ガラクサミンにより同様の検討を行ったところ、DSS大腸炎ラットおよびマウスで感受性の上昇が観察された。また、このような肝障害増悪は、TLR4を欠損したマウスでは見られなかったことから、TLR4リガンドが危険信号となることが示された。一方、アセトアミノフェンやジクロフェナックの肝障害においては、毒性発現とともにヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の誘導が観察され、このHO-1誘導を抑えることにより毒性が増強した。これらの結果は危険信号としてのヘムの関与を示唆しており、またジクロフェナックやトログリタゾンは肝臓の主要なヘムタンパクであるP450を損傷させることから、P450がフリーヘムの生成源となる可能性が示唆された。
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