大腸粘膜表面に起こる僅かな病変を造影剤により的確に捉えるため、大腸癌に対する高選択的な認識能に加え、非標的組織である大腸粘膜に対する非特異的な相互作用の抑制という観点から、造影剤である大腸癌認識性ナノキャリアを設計した。ナノキャリアのプラットフォームとして、疎水性のポリスチレン核を親水性のポリマー鎖が被覆するように相分離した高分子性微粒子を用いた。ポリマー鎖として、消化管粘膜との相互作用が極めて弱いPoly(N-vinylacetamide)(PNVA)及び後述するレクチンを微粒子表面に固定化するPoly(methacrylic acid)(PMAA)をマクロモノマー法により微粒子表面に導入した。また、造影剤を視覚的に捉えるため、疎水的相互作用を利用し、FITC-cholesterolを微粒子のポリスチレン核に保持させた。さらに、大腸癌細胞の粘膜表面に発現するThomsen-Friedenreich(TF)抗原の末端糖鎖であるβ-D-galactosyl-(1→3)-N-acetyl-D-galactosamine(Gal-β(1-3)GalNAc)を特異的に認識するピーナッツレクチン(PNA)を前述のPMAAと共有結合させることにより、微粒子表面に固定化し、大腸癌認識性ナノキャリアを合成した。PNVAが導入されていないナノキャリアの場合、未反応のPMAA残基による強い非特異的な相互作用が確認された。この相互作用はナノキャリア表面にPNVAを導入することにより著しく改善され、インタクトのPNAと同等のGal-β(1-3)GalNAcに対する選択性が得られた。しかし、同糖鎖に対する親和性はインタクトのPNAより低く、PNA活性がPNVAにより減弱されていると考えられた。PNVAの分子量を小さくした結果、インタクトのPNAと同等のGal-β(1-3)GalNAcに対する親和性、かつインタクトのPNAより優れた選択性を示すナノキャリアが得られた。当該ナノキャリアは、TF抗原陽性のヒト乳腺癌由来T-47D細胞に付着することが蛍光顕微鏡により確認された。
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